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うたかた日誌

好きに、書いてます。

アイツが死んだ

夜の帰り道、車を走らせていると、自宅付近の道路のカーブのところに、猫が横たわってるのが見えた。車に跳ねられた事はなんとなくわかった。白黒の模様も見えた。すぐに車を止めた。

恐怖だった。

うちで一緒に住む猫が二匹とも白黒の模様だから、それは本当に恐怖だった。

車を降りて、その横たわった猫のところまでいく途中、いろんな事を考えた。それがうちの猫だとしたら、ルンルン気分で帰ってきた私は、直ちに絶望的になり、泣き崩れ、その亡き骸を抱き、狂ったように海まで駆け抜けてしまうのではないか、とか、それとは別に、そのまま体が硬直して立ちすくみ、カーブを勢いよく走行してくる車の急ブレーキとヘッドライトの眩しさに、ハッと我に返る、とか。たった数秒でそんなことを想像した。あの夜の海から聞こえる波の音が、まるでうなり声のように錯覚してしまうほどの暗闇がそうさせたのか、祈るのではなく、嫌な想像しか湧いてこなかった。わたしはその暗闇の中、恐怖の中、それに近づいてジッと見た。

アイツだった。想像とは違った。頻繁に我が家に忍び込み、太々しくソファに寝に来ては、おしっこをスプレーして帰る、皮肉にもうちの猫と同じような模様をしている野良猫のアイツだった。うちの猫が嫌がるのもあって、来ると追い払っていた。

「オマエ何やってんの!起きなさいよ。」と私は声を掛けた。揺すっても反応がなかった。

とても哀しくなった。

もう恐怖感は消えていた。それが一緒に暮らしている猫じゃなかったからとか、その野良猫だったから、とかではなく、それが一体何ものなのかがハッキリしたからだ。

海辺の暗い夜道、車の通りが少ないのはわかっていたけれど、カーブで見通しが悪いのもあって、アイツとの思い出に浸る余裕はなかった。すぐに着ていたパーカーを脱ぎ、それで包んでそっと抱き上げた。まだ柔らかかった。

木の根っこのところまで連れていき、土や枯葉をかき集めて、その間ずっと私は「何やってんの、何で、何で?」とブツブツ言い放ちながら、アイツを埋葬してやった。アイツは私を嫌いだったろうし、まさか接触の時が来るなんて想像もつかなかったけど、今となっては、もう先のない最後の触れ合いみたいで、もっと哀しくなったし、同時に愛おしくもなった。

少し先の我が家に戻ると、一匹の猫が玄関越しに待っているのが見えた。いつもはこんなところで待っていないのに、不思議だった。普段この時間にはあまりいないはずのもう一匹の猫も帰ってきた。二匹にその旨を伝え、諸君も気をつけるように、と強く言った。

急に忘れていたことを思い出した。今朝起きると、アイツが来て、うちの猫が脅かして追い払ったのか、アイツの白い毛と糞が床に散らかっているのを見た。驚いて必死に逃げていった様子が伺えた。野良猫の生活環境はとても過酷だ。いつだって必死に生き伸びてきた。アイツも精一杯生きた。

その後、アイツの血が付着したパーカーを風呂場で洗っていると、小さな爪が引っかかっているのを見つけた。そっと手にとり、その薄く剥がれた頼りない爪を神棚に納めてやった。

 

(ミワヨシカズ)