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うたかた日誌

好きに、書いてます。

鳴き声

コラム集

夜になって、その鳴き声は静けさの中の暗がりに響いていた。

どちらかと言うと悲しく響いていたその声に導かれ、私は玄関を出た。どうやら随分近いところから聞こえてくる。とても静かな場所なので、少しくらいの風が吹いていてもいろんな声をキャッチできる。以前、知人から譲ってもらった木のオブジェのようなものが玄関先に置いてあり、廃材にも見えかねないその木は、いつからかずっと家の入口に立っている。するとその声が、その木の方から聞こえてくる事に気付きはじめた。でも待てよ、木が泣いているなんて、今更どうしたんだ、そんな訳はない。もしや冊子の建て付けが悪く、風であおられ擦れて音をたてているだけではないのか、それとも玄関の柱にネズミが穴を開け、その中に子が居て鳴いているのではないか、など様々な想像をした。それと同時に、その玄関先に置いてある木に暮らしている住人のことを想った。その木の裏にそれぞれ穴を開け、暮らしているクマンバチが二匹いる。まさか!そこに蟻たちが行列を作り、一つの穴に向かっていた。穴から丸見えになっているクマンバチに近づき、耳を澄ますとやはり鳴いているのはクマンバチだった。もしかして、子を産む最中で鳴いているのでないか、それとも穴に向かって来た蟻を食べて、美味しいと唸っているのか、それとも少し弱っているところを蟻たちに気づかれ、襲われて鳴いているのでは、など、これまた様々な想像をした。少しわからなくなったが、もがいているようにも見えたので、箒で蟻を追い払った。

部屋に戻り、少し経ってから聞き耳を立ててみると、その鳴き声はすっかり収まっていた。しばらくしてまた玄関を出て確認すると、蟻はいなくなっていて、静かになったその木はいつもの役割に戻っていた。”住人さん、こんな事をして本当に良かったのか、余計なことをしたのではないか。”と、わたしはたまに強く吹きかける風に髪を踊らせながら、ブツブツとつぶやいた。

 

(ミワヨシカズ)

 

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