うたかた日誌

好きに、書いてます。

弁当屋

午前11時半、私は弁当屋に並んでいる。一面ガラスのサッシを横に引くと二間はあるだろうか、目の前を横に長く広がるカウンターが厨房と客をくっきりと分けている。そのカウンターとサッシの距離はわずか一人分のスペースで、横に並ぶ客はそれぞれ肩が触れるか触れまいかの間隔を保ち、いっせいに厨房の方を向いている。丸見えになったその厨房はレジを打つ人以外は人と目を合わす暇さえない、まるで戦場だ。私は注文するタイミングを逃すと、後から来た客に先を越された。その客を手本に同じように注文すると、その人一人分のスペースにきっちりと収まった。

活気溢れる目の前の厨房の中をずっと見つめていた。無駄な動きは一つもなく、厨房内の掛け声や注文の客の声をきちんとキャッチしながら、調理や盛り付けやらで忙しく動いている。目が離せなくなっていたが、しばらくして結構な時間待っていることに気がついた。しかし、この昼時に腹も空いているにも関わらず、客の誰一人苛立つ様子もなく、厨房内の”デン”とした女将さんのユーモアある独り言にクスッと笑うくらいだ。私は待ち時間や順番を抜かされたことなどどうでも良くなった。前もって電話で注文していたのか「○○です」と名前を言う客が結構いたので、私も「菅原です」と言いたくなったが、名前を伝えていないし電話すらしていない。30号ほど炊けるであろう業務用の大きな炊飯器が一つ空になって、二つ目の炊飯器の蓋が開いたとき、そこから放つ湯気が厨房内の活気をより強めた。

外食や買って食べる弁当は、家庭で作るご飯や弁当より確実に飽きがくるものだと思っていたが、この弁当屋の厨房を見ていたらまるで家族が作った弁当のようで、いつでも食べたくなるような気がした。弁当屋に並ぶなんてラーメン屋じゃあるまいし、と私自身ありえない話と思っていたが、またあの一人分のスペースに収まって、厨房内を見つめている自分を既に想像しているのだ。

 

(ミワヨシカズ)

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